2022年11月24日
エイジングケア
知識の乏しさは、命に係わる?
知識の有無は生死の分かれ目
先日、村上もとかの人気漫画「JIN―仁― 」(集英社文庫)を全13巻、読みました。この漫画は2009年、主演・大沢たかおでドラマ化され、国内外の多くの賞を獲得し話題にもなりました。今回はこの漫画を題材にしてお話しします。
まず、少しだけ漫画の筋書きを紹介しましょう。西暦2000年、現代の脳外科医・南方仁が、ある事件をきっかけに138年も前の江戸時代(1862年)にタイムスリップし、幕末の動乱に巻き込まれていきます。
そこで南方仁は、斬り合いや襲撃事件で深手を負った人々を救うため、現代の知識や医療技術をフル活用して腕を振るいます。さらに、その時代に流行った死の伝染病コロリ(コレラ)や、当時の国民病である脚気など多くの病にも、現代の医療・栄養知識で対応し多くの人々を救います。
漫画とはいえ、幕末と現代の医療常識・医療レベルの差を明確に表した物語と言えましょう。幕末の医療では多くの人が亡くなるところを、現代の進んだ医療で対応すればそうはならず、知識の有無が生死の大きな分かれ目となっているといえます。
本当に正しい知識を得る
同様なことが明治時代にも起こっていました。当時、陸軍と海軍では、それぞれ脚気に対する知識や対応が全く違っていました。陸軍の軍医・森林太郎(森鴎外)は、脚気の原因は細菌説により脚気菌ではないかと考え、兵士が脚気で死亡すると兵舎の清掃などを徹底させました。
一方、海軍の軍医・高木兼寛(後の東京慈恵医大の創立者)は英国に留学経験がありました。英国海軍では脚気で亡くなる兵士などがいなかったことから、原因は栄養に欠陥があるのではないかと見抜き、兵食に麦飯を取り入れて明治海軍から脚気を激減させます。
しかし陸軍は、麦飯が有効とする説が広まると、対抗するように細菌説に固執します。
その結果、海軍兵士の脚気の死亡者数は、日清戦争ではゼロ、日露戦争では3人であったのに対し、陸軍兵士は日清戦争では4000人以上、日露戦争では2万7000人以上だったと言われます。
「良いことは素直に学べ」という姿勢で、海軍の食事をまねるだけで死者は大きく減らせたのに、至極残念な結果です。脚気で死んでいった兵隊さんもたまったものではありません。知識や対応の違いでこのように雲泥の差となるのです。
現代社会は情報過多の時代です。怪しい情報も多々あります。本当に正しい知識を得るために、勉強をしましょう。勉強には高いコストは掛かりません。しっかり勉強すれば、広い知識を得て判断力もつき、貴方や貴方の家族を守ることができるのです。
参考文献:内田正夫『日清・日露戦争と脚気』和光大学総合文化研究所年報「東西南北」収録(2007年)