2021年03月04日
ヘアケア
睡眠と育毛 ~寝る子(の毛)は育つ?~
睡眠は健康維持に必要
睡眠は、哺乳類と鳥類が進化の過程で獲得した、大切な機能です。
睡眠がどのような健康効果を持っているのかは、未だにはっきりしていませんが、摂取したカロリーを適正に処理する(睡眠不足になると食べても太らなくなる)、体温調節能力を正常に保つ、そして、免疫力を正常に保つなどの意義があると言われています。
これらの意義は、普通に生活しているとあまり実感できませんが、よく眠れると疲労感が取れて、気持ちもすっきりし、心身共に快調な気分になるのは確かです。そして、ぐっすり眠ることは、髪の毛の生育にも良さそうな気がします。
実際に、睡眠と育毛の間にはどのような関係があるのでしょうか?まずは、私のクリニックで経験した、2例の臨床経過をご覧下さい。
改善していた脱毛症が、熱帯夜での睡眠不足で再発
写真1は、自律神経が乱れやすい6月に円形脱毛症を再発し、私のクリニックで、インスリン様成長因子-1(IGF-1)を増やす治療を受けている60代女性の頭部です。治療後、順調に改善していました。しかし熱帯夜が続く中、あまりエアコンを使わず、浅い眠りの夜が続いた結果、円形脱毛症が再発しました。
▼写真1:60代女性/多発型円形脱毛症。左から治療前、治療11ヵ月後、治療12ヵ月後(熱帯夜の不眠1ヵ月後)。
仕事が多忙で、睡眠時間が1時間短くなり、脱毛症が悪化
写真2は、前頭部の脱毛を来した、重症の男性型脱毛症の患者さんの頭部です。街中の育毛サロンに18年間も通ったそうですが、全く効果がなく、IGF-1を増やす治療で、やっと産毛が増えてきました。
ところが、多忙になり、毎日の睡眠時間が1時間短くなる日が1ヵ月続くと、産毛が細くなっていきました。またその後、睡眠不足がもう1ヵ月続くと、さらに細くなっていきました(写真2)。
しかし、仕事が忙しくなくなり、睡眠時間も元通りになると、その1ヵ月後には産毛が太くなり、治療に反応して脱毛症が改善していきました(写真2)。
▼写真2:40代男性/男性型脱毛症。左から睡眠不足前、睡眠不足1ヵ月後、睡眠不足2ヵ月後、睡眠不足解消1ヵ月後。
睡眠が浅くなったり、睡眠時間が短くなったりすると脱毛する
これら2例の経過から分かることは、睡眠が浅くなったり、短くなったりすると脱毛し、また十分な睡眠は育毛に重要であるということです。育毛にはIGF-1が重要なので、十分な睡眠はIGF-1を増やし、睡眠不足はIGF-1を減らすことになります。
では、なぜ睡眠不足でIGF-1が減ると脱毛し、睡眠時間を増やすとIGF-1が増えて育毛効果が表れるのでしょうか?
誰でも知っている、睡眠と成長ホルモンの関係
睡眠と育毛の関係については、睡眠により成長ホルモンが増えるという事実が有名です。しかし、なぜ成長ホルモンが育毛効果を発揮するのでしょうか?
睡眠は、深い睡眠と、夢を見ている時の比較的浅い睡眠(眼球運動を伴う睡眠であることからREM睡眠という)から成っています。成長ホルモンはIGF-1を増やします。そして、深い睡眠(つまり非REM睡眠)により成長ホルモンが増えてくるので、寝入りばなの1時間ほどの深い睡眠で、IGF-1が増えます。
しかし、寝入りばなの深い睡眠が育毛に重要であるということだけでは、睡眠時間が短くなって脱毛し、長くなると育毛効果が表れるというメカニズムは説明できません。
十分な睡眠時は成長ホルモンを介さずIGF-1増加、 睡眠不足時は交感神経が緊張しIGF-1減少
若年の健常人を対象とした臨床研究(加齢により睡眠のリズムが乱れてくるので、若年を対象としたのでしょう)で、睡眠時間を通常より1時間半増やしただけで、成長ホルモンの増加を伴わない、IGF-1の増加が起こることが確認されています。
また、睡眠時間を短くすると、交感神経が緊張することも報告されています。
IGF-1が増えるためには、副交感神経の働きが重要なので、睡眠不足時は、交感神経の働きが副交感神経のそれよりも優位になり、IGF-1が減少することになります。
逆に、メカニズムは不明ですが、上述のように、十分な睡眠は副交感神経の働きを高めて、成長ホルモンに依存しないIGF-1の増加をもたらすのでしょう。
これらの事実は、寝入りばなの成長ホルモン増加を介したIGF-1増加以外のしくみで、睡眠時間を長く取ると、IGF-1が増加し育毛効果が表れ、逆に睡眠不足で、IGF-1が減少し脱毛するということの説明になります。
IGF-1を増やす生活で、睡眠が深くなり、睡眠を介したIGF-1増加までもたらして育毛につながる
先天的にIGF-1を作れない病気(ラロン症候群)の人は、例外なく睡眠障害が見られており、IGF-1そのものが睡眠を深くする作用を持つことが分かっています。
すなわち、IGF-1を増やせば睡眠が深くなり、寝入りばなの成長ホルモン作用を介したIGF-1の増加以外にも、深い睡眠、そして睡眠時間の延長によるIGF-1の増加がさらに期待できるため、育毛は促進されることになります。
もちろん、知覚神経を刺激して副交感神経の働きを高め、IGF-1を増やすカプサイシンやイソフラボン、キングアガリクスなどを含むサプリメントを摂取することも、深い睡眠を得るためには重要です。
毎日の生活リズムを正して、その補助として上述のサプリメントを取り、睡眠では寝つきを良くし、途中で長い覚醒なく、できるだけ長く眠ることが、副交感神経の働きをさらに高め、成長ホルモンに依存しないIGF-1の増加を促進します。
その結果として、育毛も促進されます。“寝る子は育つ”のも事実ですが、“寝る子の毛も育つ”のも、本当です。