2021年11月04日
ヘアケア
カプサイシン受容体の発見でノーベル賞!治療への応用は?
2021年10月、カプサイシンの受容体を発見したデービッド・ジュリアス博士らに、ノーベル賞が授与されることが決定しました。
この発見とその後の研究により、知覚神経にあるカプサイシン受容体は、カプサイシンなどの化学物質、43℃以上の温熱刺激、酸性環境、さらに物理的な刺激などの多様な刺激に反応する、ポリモーダル受容体であることが判明しました。
これらの成果をもとに、その後の治療への応用が期待されました。しかし、いまだに臨床治療への応用はされていないのが現状です。
カプサイシン受容体研究の成果は、いまだに臨床応用されていない!
かつて、カプサイシンは、帯状疱疹後の神経痛治療への応用が検討されました。この原理を簡単に言えば、青唐辛子のような辛い唐辛子を食べると、口の中がしびれて、痛覚が麻痺することと同じです。
米国では、この神経痛の治療に高濃度カプサイシンが使われているようですが、日本では、痛みの評価がうまくできず、治療薬にはなりえませんでした。しかし、お粗末な発想です。これ以外には、臨床応用はありません。
カプサイシン受容体発見の臨床応用には、痛みやかゆみの持つ意味を考えることが必要
カプサイシン受容体を刺激すれば、痛みやかゆみが出ます。多くの研究者は、この発見で、痛みを取る鎮痛剤の開発を考えてしまうでしょう。しかし、痛みやかゆみの意味を深く考えてみないと、単純に症状を取ることが、本当の病気の治療になるかどうかはわかりません。
痛みやかゆみは、生体に何か侵害刺激が加わったことを知らせる警告反応です。これに対して、生体は、反射的に痛みの原因から逃れる反応を起こし、また、持続する強い痛みに対しては、体を安静にさせます。
人間の体には、自身で病気や怪我を治す力があります(治癒力)。植物は、傷つくと、その部分に樹液が出てきて、傷を修復し外敵を寄せつけなくします。ヒトにも、これと似た修復力があるはずです。
怪我を例にとると、受傷した部位では、血液が血管外に流れ出すことで、血液が固まる反応が起こります。すなわち、受傷部位では、出血と同時に、その部位で起こる炎症や感染を抑制する反応が起こるはずです。
つまり、侵害刺激で知覚神経のカプサイシン受容体が刺激されると、その刺激が、何らかのメカニズムで治癒力を引き出す可能性も当然考えられます。
そうであれば、逆に、この受容体の刺激により治癒力を呼び起こせる方法が開発できないかと、考えても良いのではないでしょうか?
カプサイシン受容体の刺激で、インスリン様成長因子-1が増えることが偶然見つかった
前述のように、受傷した部位の血液が固まる過程で、感染を抑えるような機構が、同時に作動するのではないかと私は考えていました。
私の研究で、アンチトロンビンという血液凝固をコントロールするたんぱく質が、知覚神経を刺激して、インスリン様成長因子-1(IGF-1)を増やすことが、偶然に分かりました。
IGF-1は、免疫力を上げ、炎症を抑える作用を持ちます。そして、怪我をした部位で、アンチトロンビンが知覚神経を刺激して、IGF-1を増やし、局所の治癒力を高めることが分かりました。
IGF-1には育毛効果もあったので、血液の研究から、カプサイシン受容体を刺激して、育毛効果が発現するかどうかを検証する研究に、ここから舵を切ったことになります。
カプサイシン受容体の、多様な刺激に反応する成果を利用した育毛戦略
その後、カプサイシンと大豆イソフラボンの組み合わせが、知覚神経を効率よく刺激して、育毛効果を発現させることを確認しました。さらに、直接ではないのですが、露地栽培アガリクスに含まれるβーグルカンも、カプサイシン受容体の活性化を起こすことも分かりました。
カプサイシン受容体は、温熱刺激でも活性化されやすくなるので、カプサイシンを頭皮に塗って、その部分をヘアードライヤーなどで温めても、育毛効果が発現します。また、カプサイシン受容体は、物理的な刺激にも反応しますので、以前にもお示ししたように、梅花鍼で頭皮を刺激すると、産毛が増えてきます。
このように、カプサイシン受容体のポリモーダル受容体である側面を利用すれば、様々な刺激でIGF-1が増えて、育毛効果が得られ、また、IGF-1の多様な効果のために、全身のカプサイシン受容体を刺激すると、生体では様々な健康効果が表れることも分かってきたのです。
このメカニズムが正しいことは、カプサイシン受容体の活性化を抑える、ロキソニンなどの痛み止めやアレロックなどのかゆみ止めの服用で、IGF-1が減少して脱毛することがあるという事実からも判断できます。
かつてノーベル賞は、人々の幸福に貢献した科学的な業績に対して与えられていた
これまでにノーベル賞は、研究業績の素晴らしさに加えて、社会貢献度の高い業績に授与されていました。青色発光ダイオードやイベルメクチンの開発は、その良い例と言えます。しかし、カプサイシン受容体の発見は、社会貢献なしでの受賞となり、何かしらの疑問を感じます。
iPS細胞の発見も、ノーベル賞受賞から10年近く経ちますが、その社会貢献という観点からは、いまだに“シャーレの中の万能細胞”の域を出ていません。
2018年にノーベル賞が贈られた、抗がん剤であるオプジーボは、免疫力を高める奇跡の抗がん剤として注目を集めました。
しかし、実際の効果は、投与された患者の2~3割で見られるのみで、副作用は他の抗がん剤とは異なり、現代医学では治せない自己免疫疾患、そして投与後の予後は、免疫療法に反応しやすい悪性黒色腫を除けば、既存の抗がん剤よりも、決して優れてはいないことも分かってきました。社会貢献ができているとは言い切れない状況です。
最近の医学の基礎研究や臨床研究では、多くの研究者が同じ方向を向き、誰が一番にその目的を達成するかという、多様性に乏しい競争になっています。それでは、新奇性のある研究はできないでしょう。
カプサイシン受容体発見の臨床応用は、毛髪を取り戻そうとしている人たちで実行されている
前述のように、カプサイシン受容体の発見の臨床応用は皆無と言って良いでしょう。しかし、この受容体を刺激するとIGF-1が増えて、育毛効果が得られることは分かっています。
したがって、サプリメントをはじめ、様々な刺激でカプサイシン受容体を刺激して豊かな髪の毛を取り戻そうとしている人たちこそが、ノーベル賞の業績を社会貢献につなげる主役となっています。